2022.03.23 編集室より 【更新】スタッフ体験談・ともが脳内出血になってから

ともです。
マルータ読者さんより「先月見逃した!」のお声も頂いたのでバックナンバーを公開しています。
なお、応援して下さる読者の皆さまありがとうございます!
今は回復が進み、入院していた頃よりだいぶ良くなりました。
皆さまもとにかくお体を大事にされますよう…

その1

それは11月8日だった。
いつもの日と同じ月曜日の朝。体調の変化に特に気づかなかった。あえて言うなら変だったのが、メールの文章が打てなかったことだ。

「あれ?私変かな…」

すぐに私の異変にくすが気づいた。そしてあっという間に病院に連れていかれ、CTで500円玉大くらいの脳内出血が見つかったそうだ。
その時私の意識はすでに朦朧としていた。手術前に意識が戻り、なんとなく右手を動かした。が、そのつもりだった。脳では確実に命令をしたのに右手は動かなかった。

「ああ、マヒしたな」

それから間もなく、これから手術ですよと看護師さんの声。
そして暗転。
目が覚めた時、先生に声をかけられた。

「右手動かしてみて」

無意識にやってみると右手も右足も動いた。

「うわ!すごいやん!やった!」

なぜうまくいったのかはわからないけど、ありがたいことに手足が動いてくれた。
結論から言うと私はこうして今文章を書かせて頂いている。

実はその日からしゃべることも、人の言葉を理解することもできなくなっていた。
私に、マルータに、家族に、一体何が起きたのか、今後も少しづつ書き留めていこうと思う。

その2

脳出血になった日から3日ほど集中治療室にいた。目覚めてまず驚いた事は「見え方がおかしい」こと。目の前のものがすべて二重に見える。右の視界がほとんど見えない。

特に手元にあるものはもっとスゴかった。お粥のスプーンが超能力者がやったみたいにひん曲がって見える。だから口元までお粥を運ぶのが大変。おかゆが「びちゃ」と顎にあたる。何故そうなるのか?どうも脳がバグったせいで実際よりも5cmほどずれて見えるらしい。

あと極めつけは幻覚が見えること。注意深くお粥をすくっていると、突然目の前に一瞬だけパッと映像のようなものが見えた。それも髪の束である。毛根付きでキッチリ揃った黒髪が、何やら事件っぽい感じで置いてあるのだ。「うわあ!!」と叫ぶが看護師さんは知らん顔。患者がヘンな様子なのは慣れているらしい。

脳の疾患は脳出血、くも膜下出血、脳梗塞とあり、3つあわせて「脳卒中」と呼ぶ。私のような脳出血よりも、約8割と最も多いのは脳梗塞なのだという。

私のように「物がダブって見える」「視野が欠ける」というのも脳卒中によくある症状らしい。中でも「左右どちらかの手足のマヒ」は幸運にも避けることが出来たが、「言葉は出にくい」「人の言葉があまり理解できない」という症状はしっかり出た。

それより何よりも不安だったのは、回復できるかどうかが何も見えなったことだった。コロナでの面会制限で何の情報も入ってこない。これがいちばんキツかったと思う。

後からわかったことだが、主治医の先生や看護師さんにとっては「何も言えない」理由はあった。その先生たちの「苦しい事情」を次回にお伝えしようと思う。

【4/23更新】その3

朝元気に家を出て、昼に倒れてICU。仕事のアポも、公共料金の支払いも、誰にもわからない。みんな大混乱だったはずだ。それだけでなく近親者はものすごく心配して、ものすごく落ち込んだ。

脳卒中は今まで出来ていたことを奪い去る。患者と家族はその現実を受け入れられない。医療の進歩で昔より命を失うことは確かに減ったが、逆に障害が残る。

実際「どれくらいで治りますか?」という質問がいちばん多いと先生から聞く。リハビリで回復する症状と、脳細胞の損傷で二度と回復しない症状があるのだ。それを見分ける方法はない。つまり先生たちも全く答えを持っていない。

罹患(りかん)したばかりの患者は、すぐにこれを「受け入れられない」。突然やってきた厳しい現実を受け入れ、また立ち上がるには時間が必要なのだ。それほど重いことを先生たちは患者に軽々しく話せない。

もしも「治るよ」と言われて実際治らなかったら絶望するかもしれない。言葉は難しい。だから先生たちはみな言葉を慎重に選んでいるはずだ。

同じ患者である私ですら、病室などで自分より明らかに症状の重い方に、目を向けることすらできない。私自身が言葉をほとんど喋れなかった時、「普通に喋る人」をみて強烈に嫉妬したのだ。私にはこの荒海を必死に超えている諸先輩方をリスペクトすることしかない。

次回も続けて私の経験を綴っていこうと思う。奇怪な症状は目だけでなかったのだ。

↓は実際に描いたもの。転院した時にiPadで時々こんなのを描いていた。長い入院生活で時間があったのとリハビリを兼ね、持ってきて欲しいものを絵にして家族にLINEした。右手の動きが悪く、文字を書くのが難しかった。今見ると失語症と高次脳機能障害の症状で間違いも多い

 

【4/23更新】その4

以前「目の見え方が酷かった」と書いた。その後回復して、今はもうほとんど問題ないくらいちゃんと見える。あとは右目の視野が少し欠けているくらいだ。

目以外にも脳卒中の症状はいろいろあり、人によって違う。私が抱えているのは、足のしびれと「高次脳機能障害」だ。

この高次脳機能障害はイヤな症状をいろいろ起こす。「言葉を思い出せない」「感情が抑えられない」「はさみなど慣れた道具の使い方がわからない」などなど、バラエティーに富む。脳卒中の後、急に怒りっぽくなった知人がいた。今思えばかなりご苦労されていたと思う。

私の場合、今困っているのが言葉がなかなか出てこない「失語症」だ。テレビを観ていても、お笑い芸人さんの名前なんか3割も思い出せない。最近いちばん出てくるのは「あれ」か「あの人」だ。

この症状で意外とやっかいなのは「見た目は普通」な所だ。地味に対応に困ったりしているのに人にはそう見えない。

もう一つ自分で驚愕しているのは「頭に浮かんだ言葉と違うことを言っている」ことだ。最初に気づいた時は本当にビックリした。看護師さんに「お名前を教えてください」と言われ、子ども時代(30年前!)の姓で名乗ったのだ。

私のシナプスは一体頭のどこからこの懐かしい姓を引っ張り出したというのか。

こないだも高松の病院で「ここまでどうやって来たの?」と聞かれ、頭の中では車が浮かんでいた。「車です」って言ったつもりなのに私の口では「自転車です」って言っていたのだ。自宅から20kmもあるのに自転車ってなんだよ。

会話の相手からは「ともさんは何か勘違いしているな」と思われていたはずだが、何割かはこのシナプス君たちの仕業だったはずだ。誤解されかねない受け答えのバグ、会社では怖くて電話にも出られない。まったく。

その5につづく…