2025.09.24
コラム
中津万象園賛助会員が語る「中津万象園のここが凄い、こう使いたい」
第6回 株式会社日本総険社長 葛石 智さん


――今回は、公益財団法人中津万象園保勝会の理事を務める、株式会社日本総険代表取締役社長の葛石智さんにお話を伺います。
多度津町ご出身の葛石さんにとって、中津万象園との出会いは?
葛石 私が子どもの頃は、まだ中津の海岸が海水浴場でしたので、多度津からよく泳ぎに来ていました。その頃の万象園で強く印象に残っているのは、何といっても美しい松林。今でも当時と変わりなく松林が残されているので、訪れる度にあの頃の思い出が蘇ります。これも真鍋理事長をはじめスタッフの皆さんが保全に尽力されているおかげです。
――現在、葛石さんは中津万象園保勝会の理事をされていますが、どういった御縁で?
葛石 私は保険仲立人という仕事をしていますが、中津万象園の先代理事長・真鍋利光さんが高知の五台山竹林寺の五重塔を再建する際、建設工事保険を仲介したのがそもそもの御縁でした。五重塔のような木造建築に特化した保険が当時はほとんど無かったのですが、先代理事長の文化財再建に対する熱意にほだされ、何とか1社探し出して契約していただきました。それをきっかけに、先代からかわいがっていただけるようになりましたね。富士建設の本社に度々呼び出されては、仕事とは無関係な話を色々と聞かされていましたよ(笑)。
――そんなことがあったのですね!では、万象園もその「色々な話」の流れで?
葛石 そうですね(笑)。ある日、先代理事長に連れて行かれた先が、あの懐かしい中津万象園でした。その頃の万象園は個人の所有地でしたが、すっかり荒れ果てていて、一面ススキ野原のような状態。2人で御成門の前に立って、しばらくそのススキ野原を眺めていたのですが、先代がおもむろに「ここを買おうかと思う」とおっしゃる。失礼ながら、てっきり私は「分譲地にでもするおつもりなのかな」と思ったのです。すると、「ここは京極家の大名庭園。丸亀市の財産であり、丸亀市民の宝。このような状態にしておくのは寂しすぎる。何とか自分の手で、昔日の景観を再現したい」と、目を輝かせながら熱く語られました。

――なんと、中津万象園のターニングポイントに立ち会われていたのですね!
葛石 今振り返るとそうですね。その時は、「また夢のような話をされている」と思いましたが、その後、万象園と同じく民間が運営している足立美術館を一緒に見に行く機会もあり、相当思い入れを持たれている姿を拝見して、「どうもこれは本気やぞ」と(笑)。
――実際、足立美術館を手掛けた中根金作先生を招聘して、中津万象園を修景していただきました。
葛石 ですから万象園は、京極家の大名庭園という歴史的な面もさることながら、足立美術館の兄弟筋にあたる庭園という意味でも、本当に価値のある景勝地なんですよ。あちらには近現代の日本画や魯山人の陶芸作品などのコレクションがあり、こちらはバルビゾン派の絵画や古代オリエント陶器のコレクションがあります。勝るとも劣らない文化芸術の拠点たり得る場所なのに、丸亀市民から今ひとつ親近感を持たれていないのが残念でなりません。私も丸亀市民なのですが、地元の皆さんに聞いてみると、県外の方が観光バスで行くところ、というイメージが定着してしまっていますよね。もっと地元の方が気軽に利用できる場所、というムーブが作れるといいのですが。
――そのためにはどうすればいいでしょうか?
葛石 ひとつ私が思うのは、慶弔の催事で懐風亭を使うという市民は多いので、まずはそのお客様を園内へ誘導する仕組みを考えてみては?今も食事と入園のセット券のようなものはあると聞いていますが、例えばそれにうちわをつけるとか、園内で何か体験できるようにするといった付加価値をつけてみるといいかもしれませんね。
逆に言うと、「法事でしか行ったことがない」という人があまりにも多いので、市民が日常的に懐風亭でランチを楽しめるようにすれば、好循環が生まれるような気がします。もちろんインバウンドも含めて観光客の誘致も大切ですが、懐風亭をきっかけして万象園を市民の憩いの場にしていくことで、もっと活性化に繋がると思います。目の前に大名庭園が見えるレストランをすぐ近くで利用できるところなんて、なかなか他にはありませんから。

――地元丸亀市民ならではの鋭いご指摘、ありがとうございます。交通アクセス面など課題は山積していますが、早速検討いたします。
葛石 そこは行政がもっと力を入れるべき点なのですが。市のコミュニティバスも、市外へ行く便はあるのに市内の中津へは行かないという、ちょっといびつな路線ですしね。お城の石垣修復にお金がかかるのは分かりますが、それが他にある市の名所を蔑ろにしていいという言い訳にはなりません。ましてや中津万象園は、市指定の文化財で、市民の宝なのですから。私もできる限りの働きかけを続けてまいります。
――ありがとうございます。最後に、葛石さんが万象園で是非見てほしいと思うスポットをお教えください。
葛石 万象園は「見る」だけではなく、懐風亭の食事も含めて、五感で楽しめるスポットです。中でも私が好きなのは、あの松林です。「閑坐聴松風(閑坐して松風を聴く)※注」という禅語がありますが、まさにその境地に到れる場所。是非、耳を澄まして松林を通り抜ける浜風の音、木々のざわめき、野鳥の声などに耳を傾けてほしいです。
松林は、手入れを怠るとあっという間に枯れてしまいます。かつてあった松の名所がどんどん失われている中、あの規模の松林を、ありのままの姿で維持保全しているのは、先代理事長の思いを受け継いだ富士建設さんの矜持のようなものを感じます。しかし、そこにかかる莫大なお金と労力は、世間一般には伝わりにくい。積み直せばいい石垣とは違い、枯れてしまってからでは手遅れなのですが……。ここも行政からのサポートが得られるといいのですが、その理解を得るための時間と労力もまた、相当かかるであろうことは容易に想像がつきます。
そんなじれったい思いも多々ありますが、今後も先代の遺志を知る中津万象園最古参の賛助会員として、日本のどこにもない「森羅万象の大名庭園」を守るお手伝いができれば嬉しいです。

※注 一切の雑念を捨て、静かに座って、松が風に揺れる音に耳を澄ませば、澄み渡った音が聞こえてくる。すなわち、心静かに自然の真理や宇宙の息吹に触れる境地を示すことを表す言葉。

第6回 株式会社日本総険社長 葛石 智さん


――今回は、公益財団法人中津万象園保勝会の理事を務める、株式会社日本総険代表取締役社長の葛石智さんにお話を伺います。
多度津町ご出身の葛石さんにとって、中津万象園との出会いは?
葛石 私が子どもの頃は、まだ中津の海岸が海水浴場でしたので、多度津からよく泳ぎに来ていました。その頃の万象園で強く印象に残っているのは、何といっても美しい松林。今でも当時と変わりなく松林が残されているので、訪れる度にあの頃の思い出が蘇ります。これも真鍋理事長をはじめスタッフの皆さんが保全に尽力されているおかげです。
――現在、葛石さんは中津万象園保勝会の理事をされていますが、どういった御縁で?
葛石 私は保険仲立人という仕事をしていますが、中津万象園の先代理事長・真鍋利光さんが高知の五台山竹林寺の五重塔を再建する際、建設工事保険を仲介したのがそもそもの御縁でした。五重塔のような木造建築に特化した保険が当時はほとんど無かったのですが、先代理事長の文化財再建に対する熱意にほだされ、何とか1社探し出して契約していただきました。それをきっかけに、先代からかわいがっていただけるようになりましたね。富士建設の本社に度々呼び出されては、仕事とは無関係な話を色々と聞かされていましたよ(笑)。
――そんなことがあったのですね!では、万象園もその「色々な話」の流れで?
葛石 そうですね(笑)。ある日、先代理事長に連れて行かれた先が、あの懐かしい中津万象園でした。その頃の万象園は個人の所有地でしたが、すっかり荒れ果てていて、一面ススキ野原のような状態。2人で御成門の前に立って、しばらくそのススキ野原を眺めていたのですが、先代がおもむろに「ここを買おうかと思う」とおっしゃる。失礼ながら、てっきり私は「分譲地にでもするおつもりなのかな」と思ったのです。すると、「ここは京極家の大名庭園。丸亀市の財産であり、丸亀市民の宝。このような状態にしておくのは寂しすぎる。何とか自分の手で、昔日の景観を再現したい」と、目を輝かせながら熱く語られました。

――なんと、中津万象園のターニングポイントに立ち会われていたのですね!
葛石 今振り返るとそうですね。その時は、「また夢のような話をされている」と思いましたが、その後、万象園と同じく民間が運営している足立美術館を一緒に見に行く機会もあり、相当思い入れを持たれている姿を拝見して、「どうもこれは本気やぞ」と(笑)。
――実際、足立美術館を手掛けた中根金作先生を招聘して、中津万象園を修景していただきました。
葛石 ですから万象園は、京極家の大名庭園という歴史的な面もさることながら、足立美術館の兄弟筋にあたる庭園という意味でも、本当に価値のある景勝地なんですよ。あちらには近現代の日本画や魯山人の陶芸作品などのコレクションがあり、こちらはバルビゾン派の絵画や古代オリエント陶器のコレクションがあります。勝るとも劣らない文化芸術の拠点たり得る場所なのに、丸亀市民から今ひとつ親近感を持たれていないのが残念でなりません。私も丸亀市民なのですが、地元の皆さんに聞いてみると、県外の方が観光バスで行くところ、というイメージが定着してしまっていますよね。もっと地元の方が気軽に利用できる場所、というムーブが作れるといいのですが。
――そのためにはどうすればいいでしょうか?
葛石 ひとつ私が思うのは、慶弔の催事で懐風亭を使うという市民は多いので、まずはそのお客様を園内へ誘導する仕組みを考えてみては?今も食事と入園のセット券のようなものはあると聞いていますが、例えばそれにうちわをつけるとか、園内で何か体験できるようにするといった付加価値をつけてみるといいかもしれませんね。
逆に言うと、「法事でしか行ったことがない」という人があまりにも多いので、市民が日常的に懐風亭でランチを楽しめるようにすれば、好循環が生まれるような気がします。もちろんインバウンドも含めて観光客の誘致も大切ですが、懐風亭をきっかけして万象園を市民の憩いの場にしていくことで、もっと活性化に繋がると思います。目の前に大名庭園が見えるレストランをすぐ近くで利用できるところなんて、なかなか他にはありませんから。

――地元丸亀市民ならではの鋭いご指摘、ありがとうございます。交通アクセス面など課題は山積していますが、早速検討いたします。
葛石 そこは行政がもっと力を入れるべき点なのですが。市のコミュニティバスも、市外へ行く便はあるのに市内の中津へは行かないという、ちょっといびつな路線ですしね。お城の石垣修復にお金がかかるのは分かりますが、それが他にある市の名所を蔑ろにしていいという言い訳にはなりません。ましてや中津万象園は、市指定の文化財で、市民の宝なのですから。私もできる限りの働きかけを続けてまいります。
――ありがとうございます。最後に、葛石さんが万象園で是非見てほしいと思うスポットをお教えください。
葛石 万象園は「見る」だけではなく、懐風亭の食事も含めて、五感で楽しめるスポットです。中でも私が好きなのは、あの松林です。「閑坐聴松風(閑坐して松風を聴く)※注」という禅語がありますが、まさにその境地に到れる場所。是非、耳を澄まして松林を通り抜ける浜風の音、木々のざわめき、野鳥の声などに耳を傾けてほしいです。
松林は、手入れを怠るとあっという間に枯れてしまいます。かつてあった松の名所がどんどん失われている中、あの規模の松林を、ありのままの姿で維持保全しているのは、先代理事長の思いを受け継いだ富士建設さんの矜持のようなものを感じます。しかし、そこにかかる莫大なお金と労力は、世間一般には伝わりにくい。積み直せばいい石垣とは違い、枯れてしまってからでは手遅れなのですが……。ここも行政からのサポートが得られるといいのですが、その理解を得るための時間と労力もまた、相当かかるであろうことは容易に想像がつきます。
そんなじれったい思いも多々ありますが、今後も先代の遺志を知る中津万象園最古参の賛助会員として、日本のどこにもない「森羅万象の大名庭園」を守るお手伝いができれば嬉しいです。

※注 一切の雑念を捨て、静かに座って、松が風に揺れる音に耳を澄ませば、澄み渡った音が聞こえてくる。すなわち、心静かに自然の真理や宇宙の息吹に触れる境地を示すことを表す言葉。